CBDCの概要と中央銀行によるデジタル通貨の計画事例

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近年、CBDCという言葉を耳にすることが多くなってきました。

CBDCとは、“Central Bank Digital Currency”の略で、国の中央銀行が発行するデジタル通貨を意味します。

現在、世界各国が仮想通貨のブロックチェーンの技術を使った電子通貨に注目し、世界各地の中央銀行でCBDCへの関心が高まりつつあります。

そして、各国政府とその中央銀行は、現行の法定通貨に変わるCBDC(デジタル通貨)の開発を今急速に進めています。

具体的な実行計画やCBDCの発行状況は国によって異なり、また完全な情報開示もされていないため、正確な進捗状況は明らかになっていません。

しかし、スイスに拠点を置く国際決済銀行(BIS)は、世界63の中央銀行を調査し、そのうち約7割がすでにCBDCの調査を始めていると公表しています。

BIS(Bank for International Settlements)は、中央銀行間の決済のために1930年に設立された、通貨価値と金融システムの安定を支援する組織です。

今回は、CBDCの概要と、各国の中央銀行が発行するデジタル通貨の計画事例についてみてみましょう。

デジタル通貨CBDCの概要

ビットコインが世に出て10年を迎え、仮想通貨と法定通貨の関係は今、CBDCの発行という新しい局面にきています。

まず、デジタル通貨CBDCとはどのようなものなのか、また、各国政府の中央銀行がなぜ開発を進めているのかについてみてみましょう。

IMFが推奨する仮想通貨に変わるデジタル法定通貨

ビットコイン、イーサリアム、リップルのような主要な仮想通貨は、より迅速で安価な送金を可能にし、ボーダレスなキャッシュレス決済を加速しています。

国際通貨基金は、世界の多くの中央銀行がこの現状を認識し、CBDCの道を模索していると報告書にまとめ、さらに、通貨のデジタル化を推奨しています。

IMFという世界的な機関が、仮想通貨の利点とCBDCに言及していることで、世界の金融界が今、仮想通貨に向けて大きく動き始めているのがわかります。

CBDCは、仮想通貨のように電子的に発行される通貨で、その国の紙幣や硬貨などの法定通貨との交換が可能です。

一国の通貨が仮想通貨であるなどとは、現金主義の人にとっては、不安で考えられないことかもしれません。

しかし、人類は物々交換(バーター取引)を、“貝殻”から始めて“通貨”での取引へと発展させ、それが今、電子的になろうとしているのです。

証券や不動産登記書類がデジタル化され、カード決済が普及する今日、法定通貨が電子マネーとなるのは、ある意味では自然の成り行きかもしれません。

法定通貨の電子化とCBDCの概要

法定通貨の電子化は、消費者の送金・決済の利便性を向上するともに、各国の金融政策の有効性を確保する上でも重要な役割を果たします。

金融のデジタル化により、現金の発行・運搬・管理コストを削減し、また、取引における資金の流れを明確にして、不正や汚職を抑制することが可能です。

ビットコインなどの仮想通貨の利用拡大で、各国の金融政策の有効性が低下するなか、CBDCの導入で国家指導型の金融政策が行いやすくなります。

ブロックチェーンの技術を使うことで、取引処理の高速化が期待できる反面、ネットワーク構築や技術面での実証実験、法規制の充実が求められています。

CBDC開発における「ホールセール型」と「リテール型」

CBDCの開発は、主に金融機関の取引を対象とする「ホールセール型」と商店や一般消費者を対象とする「リテール型」に分かれます。

「ホールセール型」は、金融機関同士の迅速で安価な送金システムの構築を目指すプログラムで、既に世界中の多くの金融機関で取り組みが始まっています。

「リテール型」は、ビジネスや小売業、一般消費者の決済を対象としたシステムの構築です。

「リテール型」では現在、商業銀行がしている決済機能を、CBDCで中央銀行が行う可能性もあり、金融産業にも影響が出るのではないかとの懸念もあります。

政府の推し進める中央銀行によるCBDCの発行は、国の金融機関と経済、消費者全般に大きな影響を与えるため、慎重な取り組みが求められています。

中央銀行によるCBDCの計画事例

2016年11月、シンガポール通貨監督庁は「Project Ubin」

日本もまた2016年12月に欧州中央銀行と共同で「Project Stella」を発足させました。

マレーシアもCBDCに関するレポートを発表し、タイ中央銀行も「Project Inthanon」の発足で2019年実施に向けた取り組みを表明しています。

アジアの国々では、インドネシア、フィリピン、インドなどでも中央銀行によるCBDCの調査が進められています。

このような世界的なCBDCへの取り組みの中で、今回は、ベネズエラ、スウェーデン、中国の事例をご紹介しましょう。

ウルグアイ中銀の世界初デジタル通貨発行

2017年11に、南米ウルグアイの中央銀行が、世界初となるデジタル通貨「eペソ」の発行を発表し、法定通貨のデジタル化が話題を呼びました。

国の中央銀行が暗号通貨を発行する動きは、世界各地で検討されていますが、ウルグアイ中央銀行発行の「eペソ」はその先駆けと言えます。

ウルグアイ中銀総裁は、「ビットコインのような仮想通貨ではなく、中央銀行が責任を持つ、法貨ウルグアイ・ペソ建てのデジタル通貨」と強調しています。

携帯電話利用者を対象とした実験プロジェクト

ウルグアイ中銀は2017年の11月に、仮想通貨のブロックチェーンのDLT(分散型台帳)技術を活用した「eペソ」の試験的プログラムを開始しました。

デジタル通貨「eペソ」は、まず、国営通信会社ANTELの携帯電話利用者を対象に発行され、利用者はそれを携帯専用アプリで管理します。

「eペソ」を使い、個人間の送金や商店での買い物の決済に使用し、また、公共料金の支払いにも利用することができます。

また、国営の決済会社Red Pagosの口座にチャージして、個人や法人が「eペソ」を、法定通貨と同様に通常決済に使用できるようにする予定です。

既に1万人を対象に、通貨ペソと同価値の「eペソ」が2000万ペソ(約7800万円)発行され、試験プログラムは2018年4月に成功裏に終了しています。

ウルグアイのCBDC発行の背景

 ウルグアイの通貨のデジタル化の背景には、現金の製造・輸送に伴う高額な警備費のコスト削減や、脱税や不正な資金流れの防止があると言われています。

ウルグアイは、人口約344万人の小国ですが、米国のIBMの技術を活用することで、法定通貨のデジタル化の実現にこぎつけたとのことです。

ウルグアイの中央銀行は既にCBDCの試験プログラムを完了し、現在、市場に出回る紙幣や硬貨は減少傾向にあります。

今後、さらなる試験的プロジェクトを行い、潜在的な問題を解決してゆく段階にあるようです。

ウルグアイのフィンテック評議会

 ウルグアイは、仮想通貨の規制枠組みを整備する特別委員会「フィンテック評議会」を立ち上げています。

委員会の目的は、フィンテックのイノベーションを金融システムに取り入れ、金融機関の透明性を向上さすことです。

それにより、マネーロンダリングやテロ、麻薬密売の取り締まりを強化するともに、デジタル通貨の具体的な基準や規制を整備します。

また、政府機関や民間企業、起業家やコンサルタントが協力して「eペソ」の普及に取り組むことを相互に確認しています。

フィンテック評議会の創設者であるセバスチャン・オリーベラ氏は、「ウルグアイを南米のテクノロジーのハブとする」ことを委員会で提言しています。

ウルグアイ中銀の「eペソ」の発行は、中銀デジタル通貨発行の先駆けとなり、他国での今後の計画に、貴重な情報をもたらしてくれると期待されています。

スウェーデンのデジタル通貨への取り組み

スウェーデン国立銀行「Riksbank(リクスバンク)」は、2017年からデジタル法定通貨「e-Krona(eクローナ)」のプロジェクトに取り組んでいます。

スウェーデンは、古くから金融機関が発達し、また、イノベーションに敏感なテクノロジーやバイオの先進国でもあります。

キャッシュレス化が進むスウェーデン社会と、法定通貨のデジタル化の歩みについてみてみましょう。

マネー先進国の電子通貨「eクローナ」

国立銀行リスクバンクの前身であるストックホルム銀行は、1661年7月にヨーロッパで初めて、国家の承認を受けた紙幣を発行したことで有名です。

古くから貨幣経済が発達していたスウェーデンや、エストニアなどのスカンディナヴィア諸国では、現在、キャッシュレス決済が急速に進んでいます。

リクスバンクは2019年に「eクローナ」によるCBDCの実験プログラムを開始し、2021年の実施に向けて現在動いています。

既にスウェーデン国内では、クレジットカードやスマホによるデジタル決済が普及し、国内の現金の流通量は、2009年と比較して40%も減少しています。

デジタル大国スウェーデンとCBDCの課題

スウェーデンでは、現金決済からデジタル決済への急速な移行のなかで、マイクロチップを体内に埋め込み、乗車券代わりに利用する人も現れています。

インターネット電話「スカイプ」を生むなど、スウェーデンはデジタルテクノロジーの開発が盛んで、人々のデジタル化への関心や信頼度が高い国です。

また、政府、商業銀行、民間企業が連携してキャッシュレス化を推し進めた結果、国内店舗での現金決済が急激に減少するようになりました。

しかし、スウェーデン市場のこのように急速なデジタル決済を問題視する人もおり、現金を扱わない銀行にとまどいを見せる高齢者もいます。

小売業者の多くが現金の取り扱いをやめることになれば、銀行口座を持てない債務者などは、日常生活に支障をきたすことになります。

また、デジタル決済に対応できない低所得者や障害者の問題や、停電時の店舗での対応など、法定通貨のデジタル化にはまだ多くの課題が残されています。

「e-クローナ」の今後とデジタル通貨の将来性

スウェーデン中央銀行の発行するデジタル通貨「e-クローナ」は、まだ多くの課題を抱えていますが、国の正式な支払い手段となる日も近いとみられています。

「e-クローナ」は、仮想通貨としての特徴を持ちながらも、資産として扱われる、フィアット通貨として認可されています。

仮想通貨でいうフィアット通貨とは、米ドル、ユーロ、円などの法定通貨のことで、フィアット通貨はそれだけに流通性が高いと言えます。

「e-クローナ」の送金はP2Pで行われ、迅速かつ低コストで処理され、現金での支払いは、いずれはデジタル決済に置き換えられるだろうと言われています。

それに伴うリスクの回避や偽装対策の問題を、デジタル文化先進国であるスウェーデンがどのように乗り越えていくのかに、世界の注目が集まっています。

中国の国家主導型の金融政策とデジタル通貨の開発

中国では、QRコード決済サービスの普及率が高く、デジタル決済率が90%を上回る地域もあり、社会のデジタル化が急速に進んでいます。

その背景には、アリババのAlipayやテンセントのWeChat Payなどの決済サービスの積極的な店舗への導入があります。

キャッシュレス化の進む中国で、国家主導型のデジタル通貨CBDCの開発がどのように展開してきたかについてみてみましょう。

仮想通貨を規制しながら急ピッチで進む中国のCBDC政策

中国は仮想通貨にいち早く目をつけ、安い電力と大型機材の投入で、ビットコインのマイニングで利益を上げてきたことでも有名です。

しかし、日本が仮想通貨バブルを迎えた2017年に、中国政府は仮想通貨取引を全面的に禁止しています。

実のところ、中国の中央銀行は、ブロックチェーン技術を利用したより安価で追跡可能なデジタル通貨のメリットに、いち早く目を向けていました。

中国政府は、中央銀行発行のデジタル通貨の実現に向けて、他国に先駆けて2014年に、電子通貨の調査チームを立ち上げています。

中国の中央銀行にあたる、中国人民銀行(PBoC)は、デジタル通貨を使用した実験を、商業銀行間の取引で行なっていることを2017年に公表しています。

このように、中国はデジタル通貨の先進国と言って良いほど、暗号通貨の研究が進んでいます。

デジタル通貨研究所のCBDCへの取り組み

2018年10月、中央銀行のデジタル通貨研究所が、仮想通貨に関連する優秀な人材を募集していることが明らかになりました。

募集要項には、ブロックチェーン技術や暗号理論、セキュリティ・プロトコルのエンジニアや、経済・金融関連の人材募集内容が掲載されています。

デジタル通貨研究所は、設立から1年で既に40以上の特許を取得しており、中央銀行がCBDCの開発を急速に進めていることがうかがえます。

開発内容には、システム構造・チップデザイン・分散型アプリケーションの開発・デジタル通貨発行における金融政策やリスク対応が含まれます。

デジタル通貨研究所は、消費者利用の観点に立った、法定通貨に変わる安定したデジタル通貨のプラットフォームを構築することを目標に掲げています。

また、現金よりも維持・管理・運用費が安く、取引の追跡が容易な新しい形の通貨を作り出すことが計画されています。

中国のCBDC開発の背景とデジタル決済の現状

中国政府がCBDCを推し進める背景には、アメリカの法定通貨ドルに連動する、仮想通貨テザー(USDT)などのペッグ通貨の台頭があります。

米ドルにペッグする仮想通貨が普及することで、世界の金融市場で米ドルの影響が拡大されることへの中国の懸念があります。

また、中国は共産党の一党独裁体制であるため、デジタル通貨で通貨量を調整しながら、政府よる金融政策を効率的に推し進めたい思惑があります。

民間の商業銀行も政府の管理下にあるため、中国では中央銀行が発行するデジタル通貨を、他国に比べて流通させやすい状態にあると言えます。

いっぽう、中国でも市場決済の急速なデジタル化によって、様々な問題が出てきています。

現金決済をやめる小売店舗が出てきたり、法定通貨である人民元の受け取りを拒否する商業銀行があったりなど、中国でも金融市場の混乱が見られます。

中国人民銀行は店舗や銀行に対して、人民元の受け取りを行うよう指導していますが、中国の人民元からデジタル通貨への流れは止まらないようです。

このような要因から、中国のCBDCへの移行は、他国に比べてより近い将来になるのではないかと予想されています。

まとめ

現在、世界の国々が法定通貨の電子化に取り組んでおり、ウルグアイやスウェーデン、中国はCBDCの開発における先進国と言えます。

そして、法定通貨のデジタル化への実験的な取り組みが、水面下で世界各地で急ピッチに進められています。

しかし、法定通貨の電子化には、電力や端末の問題、社会的弱者への対応、金融機関との調整や国際間の調和など、多くの課題が残されています。

ユーロ統一で揺れるヨーロッパ諸国や、USドルの影響に対抗する中国やロシアの動きなど、各国のCBDCの展開から今後も目が離せません。

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【参考】まもなく海外銀行口座開設の受付