近年話題となっている、仮想通貨と法定通貨を融合させた「ハイブリッド銀行」とはどのような銀行でしょうか?
また、ハイブリッド化によるユーザーや企業、銀行のメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
ハイブリッド銀行が生まれるきっかけとなった背景と、そこにある需要が今後どのように展開してゆくのかについて探ってみましょう。
そして、既存銀行のハイブリッド化への取り組みや、様々な仮想通貨と金融商品との組み合わせについてご紹介します。
1. 仮想通貨の普及に伴う既存銀行の課題
現在、仮想通貨は仮想通貨販売所や取引所などの仮想通貨交換所で扱われており、一方、日本円などの法定通貨は銀行などの金融機関で取り扱われています。
ユーザーは様々な口座を持ち、仮想通貨を買うときは、仮想通貨交換所と既存銀行との間で資金のやり取りをおこなうなど、資産運用が煩雑になってきています。
そのため、仮想通貨交換所と既存銀行などの金融機関との関係を統合・整理することが、投資家である一般ユーザーより求められています。
仮想通貨と法定通貨を1つの口座でまとめられないか?というニーズが、近年高まりつつあります。
仮想通貨交換所の推移
仮想通貨は2009年、サトシ・ナカモトという謎の人物のビットコイン・プロトコルの論文で生まれ、当時は、一部のマニアがPCのネット上で購入するマイナーな投資でした。
その後、日本は超低金利時代を迎え、若者を中心に新しい形の資産運用を考えるようになり、2017年には仮想通貨の投資が過熱し、価格が高騰します。
その媒体となったのが仮想通貨交換所であり、仮想通貨を販売する仮想通貨販売所と、通貨売買の取引をマッチングする仮想通貨取引所が乱立するようになります。
2018年に入り仮想通貨の流出事件が相次ぎ、消費者を保護する観点で日本政府は、仮想通貨交換所の取り締まりに動き、金融庁登録制をひきます。
登録基準に満たない資金力のない仮想通貨取引所は淘汰され、現在は資金力のある金融機関の立ち上げた仮想通貨交換所がメジャーとなってきています。
2019年の消費税値上げを前に、政府はキャッシュレス化への取り組みを発表し、カード会社や銀行はポイントやコインの発行に力を入れ、今再び仮想通貨に人々の注目が再び集まり始めています。
仮想通貨の普及と送金問題
多くの仮想通貨投資家は、仮想通貨に投資する資金を日本円で、既存の給与振込の銀行口座から、仮想通貨交換所の口座に送金、振り込んでいます。
ユーザーから見れば、仮想通貨のリスク分散のために、複数の仮想通貨交換所に口座を開設し、貯蓄の資金管理は既存銀行でおこなわなければなりません。
仮想通貨交換所では、顧客獲得のため売買手数料が無料のところが多い中、既存銀行からの”円”の度重なる送金手数料は、ユーザーにとって大きな負担となってきます。
信頼のおける金融機関で、仮想通貨の投資で利益をあげながら、円などの法定通貨で安定した貯蓄もできる、資産の一括管理が今求められています。
銀行の顧客確保の課題
一方、銀行の定期預金の低金利時代は今後も続くとみられ、今まで仮想通貨に興味を持たなかった人も、仮想通貨での資金運用を始める傾向にあります。
銀行にとっても、貯蓄や送金サービスの利用の減少は深刻な問題となってきており、顧客の銀行離れに危機感を抱くようになってきています。
金融機関は顧客確保に、スマホ送金など、ITと金融サービス結びつけたフィンテックを取り入れ、消費者のニーズに応える新しいサービスを模索し始めています。
また、人件費や経費削減のため、ブロックチェーンを利用した仮想通貨による送金システムを、銀行自らが開発していかなければならない現状にあります。
2. ハイブリッド銀行という考え方
ハイブリッド銀行とは、仮想通貨と法定通貨の両方を扱うことのできる銀行です。
金融機関は今、仮想通貨とブロックチェーンの技術を用いたプラットフォーム(動作環境)を構築し、ハイブリッド化への道を歩み始めています。
専用のコインを発行してブリッジ通貨として使い、独自のプラットフォームを備えたハイブリッド銀行を作ることで、異なる通貨間に存在する問題を解消しようという考えです。
ハイブリッド銀行では、自己資金で専用のコインを開発しているところや、開発資金をICOで募っているところもあります。
ハイブリッド銀行のメリット
ユーザーは、ハイブリッド銀行で仮想通貨交換所や銀行などの金融機関の口座を単一化し、資金運用に費やす時間や手間、手数料を抑えることができます。
ハイブリッド銀行では、仮想通貨交換業務と既存の銀行業務を一括することで、取引決済をより簡単・迅速に、低コストで行うことが可能です。
銀行は、ハイブリッド化することで、独自のコインを発行して手数料を安くし、仮想通貨交換所に流れた顧客を取り戻すことができます。
しかし、仮想通貨のブロックチェーン技術を用いた新しいプラットフォームを作るためには、従来の金融システムを根本から構築し直すことが必要です。
現在既に、国内外の大手金融機関は「リップル」などのブリッジ通貨を利用したり、独自のコインを発行したりして新しい金融システムの開発を進め、ハイブリッド銀行の実験段階に入っています。
開発資金とICO
ブロックチェーン技術を用いた新しいプラットフォームを構築するには、莫大な資金が必要となってきます。
仮想通貨交換所でさえも、現在では、かつての草の根的な仮想通貨交換所は影を潜め、DMMやGMOのような大手企業の交換所が通貨の取引量を伸ばしています。
ハイブリッド銀行においても、資金力のあるメガバンクが自己資金で開発を始めており、実用化に向けて大きく踏み出しています。
一方、仮想通貨の誕生から暗号通貨に深く関わってきた技術者が手を組み、チームを立ち上げてICOで資金調達しながら開発しているケースもあります。
ビットコインが世に出た時のように、このようなチームによるハイブリッド銀行の取り組みは、期待できるフィンテックの新しい流れです。
いずれにせよ、仮想通貨と法定通貨の両方を扱う傾向は、仮想通貨交換所と既存金融機関の双方から、今後さらに強まるとみられています。
2019年はフィンテックをめぐって、仮想通貨と法定通貨の両方に照準を合わせた、新たな資産運用に向けた金融機関の競争の幕開けとなることは確かです。
3. 金融のハイブリッド化の計画事例
それでは、金融機関等による具体的なハイブリッド化の取り組みについて見てみましょう。
◾️自前で開発型(Fusion Bank)
FUSION PARTNERS(フュージョン・パートナーズ)社は、2015年にFUSION COIN(フュージョン・コイン)の開発を手がけ、2016年に3000万枚を発行しました。
FUSION PARTNERS社は、仮想通貨が作られた当初から、ビットコインなどの普及に携わってきた人たちが立ち上げた企業です。
仮想通貨やブロックチェーンの技術を知り尽くした専門家による新たな挑戦として、独自にコインを開発し銀行立ち上げるという“ハイブリッド化”の構想を産みました。
FUSION PARTNERS社は、現在、法定通貨と仮想通貨を扱うハイブリッドなFUSION BANK(フュージョンバンク)の開行に向けて動いています。
銀行オープン時はフュージョンコインのみですが、順次、取り扱い通貨を増やし、デビッドカードやATMなどのサービスも広げてゆく予定です。
FUSION COIN(フュージョン・コイン)の概要
フュージョンコインは、Bitcoin(ビットコイン)とRipple(リップル)の特性をあわせ持つ新しい仮想通貨で、その通貨単位は「XFC」です。
ただし、同じ名称の仮想通貨が他に存在しており、全く別物ですので注意が必要です。
通貨の単位「XFC」と発行元の会社名「FUSION PARTNERS社」で見分けるしかありません。
リップルは送金速度が速くて安く、海外送金のためのブリッジ通貨として、既に世界各地の銀行・金融機関・企業で送金手段として使われています。
フュージョンコインは、そのリップルをベースに開発され、他の暗号通貨や法定通貨に、迅速かつ低コストで交換することができます。
・公式HP: http://fusioncoin.info/
・公式Twitter: https://twitter.com/coin_fusion
・公式Telegram: https://t.me/FusionCoinJP
FUSION COIN(フュージョン・コイン)の特徴
FUSION COIN(フュージョン・コイン:XFC)の特徴は、開発にあたって資金調達のためのICOを実施していない点です。
投資家に開発資金等を頼らず、自己資金でブリッジ通貨として有効な仮想通貨XFCを開発し、次世代の金融機関のあり方を模索しています。
FUSION COIN(フュージョン・コイン:XFC)は、公式マッチングサイトで販売し、一般の仮想通貨取引所にまだ上場していません。
理由として、新規の通貨は投機的な取引が盛んにおこなわれるため、価格が乱降下します。投資家保護の目的のため、当面の措置とされています。
FUSION COIN(フュージョンコイン)は、ビットコイン、ビットコインキャッシュ、リップル、米ドルでも購入できるのが特徴です。
フュージョン・コインの発行枚数は3000万枚と少ないですが、その分希少価値があるのではないかと言われています。
発行時の価格は1XFC=1ドルで、2018年には一時1XFC=20ドル近くまで上昇したこともあり、今後のハイブリッド銀行の展開が期待されます。
◾️ICO型(Forty Seven Bank)
Forty Seven Bankは、仮想通貨と法定通貨のハイブリッド型銀行の実現に向けて、独自通貨の発行に際し、ICOで投資家から資金調達をおこないました。
通貨単位は、FSBT(FSBT API Token)で、現在のトークンの状況はこちらです。
Forty Seven Bankは、仮想通貨とブロックチェーンの技術を用いて銀行とユーザーをよりスムーズにつなぐ、新たなフィンテックを目指しています。
1つのアカウントで資産を管理する「マルチアセットアカウント」で、現金、クレジットカード、デビットカード、電子マネー、仮想通貨を一括管理します。
Forty Seven Bankの特徴
Forty Seven Bankは法定通貨と仮想通貨を連携させるプロジェクトで、スムーズで可視化されたAPIにより、支払いや送金をより快適なものにします。
“API”とは、アプリケーション・プログラミング・インターフェース(Application Programming Interface)の略で、基本ソフト(OS)やウェブのサービス画面から、特定のアプリを簡単に利用できるようにするものです。
開発者は、機能の呼び出し手順や記述方法などの記述を基にプログラムを開発することで、ウェブやオンラインサービスの異なるネットワーク間で、機能を共有できるシステムを効率的に構築します。
ユーザーは、分かりやすい操作画面で、容易に特定サービスにアクセスでき、また、送金処理内容や処理状況を操作画面で、即座に目で見て確認することができます。
信頼できる投資先のICOを見極める
ICOで重要なのは、投資プロジェクトにおける将来性や安全性です。
その団体・企業が掲げるプロジェクトの内容が、実現可能か、将来性があるか、大手企業との提携があるか、企画が法に抵触していないか、詐欺ではないかを事前に調べることが必要です。
そのためには、公式サイトや、掲載されているホワイトペーパー、技術文書を確認し、また、“Coinmarketcap”などで上場の状況を確認しましょう。
信頼のおける企業や企画内容であれば、ICOに投資することで、将来的に大きな利益を生む可能性があります。
◾️既存銀行の仮想通貨への参入型
現在、日本の一部大手金融機関が、独自の仮想通貨の発行に向けて動いています。
三菱東京UFJファイナンシャル・グループ・・・MUFGコインの発行
SBIホールディングス・・・Sコインの発行
みずほ、ゆうちょ銀行、地方銀行・・・Jコインの発行
金融機関は、独自のコインを発行し、ブロックチェーンを利用した送金で、効率的な決済システムを提供するハイブリッド銀行に生まれ変わろうとしています。
独自通貨発行の計画が進む中、銀行が個々に異なる仮想通貨を発行するのは避けるべきという考えもあり、各銀行は協調についても模索しているようです。
また、メガバンクが仮想通貨市場へ本格的に参入を始めたことにより、従来の仮想通貨販売所や取引所に大きな影響をもたらすとみられています。
それでは、既存の銀行や金融機関がハイブリッド銀行に向けて開発している、独自の仮想通貨の特徴について見てみましょう。
三菱UFJグループのMUFGコイン
MUFGコインは、三菱UFJフィナンシャル・グループが開発しているデジタル通貨です。
ブロックチェーンの分散型台帳の技術を活用することで、顧客情報の安全性確保と、銀行のサーバーの膨大な維持費・管理費を軽減することが可能です。
三菱UFJの金融サービスを利用する際に、MUFGコインを利用することで、同グループ企業のコスト削減を図るほか、利用者の利便にも大きく貢献します。
MUFGコインの開発経過
MUFGコインの開発情報が出たのは他銀に比べて早く、2016年の初頭のことで、三菱UFJグループは早くから、仮想通貨のIT技術に危機感を持っていたことがわかります。
2017年には社員対象の実証実験が始まり、自販機を使ったスマホQR決済の取り組みが発表されています。
また、スマホのアプリで簡単に、買い物や飲食の代金支払い決済ができ、送金では利用者の手数料を大幅に抑える送金システムも開発しています。
現在は、これらのシステムに使うMUFGコインの安定した利用を確保するため、1コイン=約1円をキープする取り組みが進められています。
MUFGコインのメリット
MUFGコインが生まれる背景には、銀行のコスト削減と生き残り戦略が挙げられます。
中国、東南アジアを始め、世界各地でキャッシュレス化が進む中、日本で現金が決済に使用される割合は、先進国平均の約2倍の6割を超えています。
現金決済の維持費は莫大で、貨幣の印刷、ATMの設置と維持、決済業務にかかる人件費などに、年間約2兆円が費やされています。
また、銀行の取引データを管理するシステムの開発・運用・維持費と、サイバー攻撃から守るセキュリティの経費も膨大です。
これらの経費削減の面かもらも、電子的な通貨やブロックチェーンを利用することは急務であり、それを実現するコイン開発は大きな課題でした。
また、仮想通貨に特徴的なP2P(Peer-to-Peer)を送金に利用することで、スピーディーな決済が可能となり、顧客の確保と拡大にもつながります。
さらに、MUFGコインをもとにカラードコインを開発し、ブロックチェーン上で著作権や登記などの情報のやり取りをする新たなデジタル資産管理の試みも行われています。
SBIホールディングスのSコイン
Sコインは、飲食店や小売店の支払いで手軽に使える決済システムのために、SBIホールディングスが開発している仮想通貨です。
SBIホールディングスは、1999年にソフトバンクの金融関連企業として設立し、2006年に独立して、現在では、SBI証券や住信SBIネット銀行をグループ企業に持つ、国内証券の最大手です。
住信SBIネット銀行は、三井住友信託銀行とSBIホールディングスの共同出資で作られた、インターネット専業銀行です。
Sコインは、一般消費者の利用のほか、企業間の迅速な決済に利用されることを目的につくられました。
Sコインの利用メリット
Sコインを利用し、ユーザーは支払いに現金を使用せず、スマホだけで簡単に決済できます。
店舗側は人件費や決済コストを抑え、より簡単で便利な決済方法で、利用者を増やすことができます。
また、決済基盤にブロックチェーンの技術を利用し、分散型台帳を活用することで、個人や店舗の特定や支払い内容を明確にし、即時入金を可能にします。
Sコインは、クレジットカードや電子マネー(SUICA、ICOCA)決済に比べて、店舗側の導入コストが低いため、事業者による導入と利用拡大が期待されます。
Sコインの展望
Sコインは、いつでもどこでも安心して使える日常通貨であると同時に、取引所でも売買可能な仮想通貨を目指しています。
社員にSコインを配布して店舗での実験的利用を開始しており、今後は、実店舗での導入を実現し、仮想通貨を使った送金サービスもスタートする予定です。
「マネータップ」というアプリでは、スマホの簡単な操作で24時間、個人の銀行口座間の送金を安い手数料でできるようにします。
SBIグループは、仮想通貨取引所SBIバーチャル・カレンシーズも立ち上げており、リップル(XRP)を発行するリップル社とも提携しています。
みずほ・郵貯・地銀のJコイン
Jコインは、みずほ銀行とゆうちょ、地方銀行が連携して開発を進めている仮想通貨で、2020年東京オリンピック開催までの実現を目指して動いています。
銀行口座にある円をJコインに替えてアプリで保管することで、スマホを使って駅の売店で支払いをしたり、個人間のお金のやり取りをしたりが可能になります。
飲食店や旅行の申し込みで、代表者がまとめて支払いを済ませ、割り勘の金額を知らせてJコイン口座へ送金してもらう、といったことが可能になります。
このような割り勘サービスは、既にLINEでも行われており、中国のアリババでは2002年からスタートしていて、現在では中国のメジャーなサービスになっています。
このような流れの中、Jコインは日本政府の「キャッシュレス化の促進とコスト削減」を目的にスタートした大規模なプロジェクトです。
Jコインの特徴
Jコインは、投資目的で購入する通常の仮想通貨のような価値変動はなく、円に変わる電子マネー感覚で使える仮想通貨といえます。
ですから、Suicaなどの交通系ICカードやPayPayなどの電子マネーのように、日頃の買い物で現金を使わず、小銭を気にせず支払えるのがメリットです。
また、観光産業の活性化のために、訪日観光客が所持する外貨を、手数料無しでJコインに換金できることも構想の中にあるようです。
現在、Jコインの実証実験は、金融庁や経済産業省など、国や地方自治体との連携により進められています。
今後は、QRコード決済が日常化している訪日中国人観光客も視野に入れて、中国のアリババグループの「アリペイ」との提携も模索しているようです。
◾️通貨自体をハイブリッド化型:AICA
仮想通貨は、価格の変動が大きいことが、実用化への一つの大きな障害となっています。
変動幅を無くして価値を安定さすのに、法定通貨にペッグ(固定)させる方法があります。
しかし、法定通貨や銀行預金にペッグする仮想通貨なら、政府や銀行と行った中央集権的制度から抜け出すことができません。
また、カード会社のポイントや企業の電子マネーでは、仮想通貨としての本来の流動性を発揮することができません。
これらの課題を解決するために生まれたハイブリッドな仮想通貨がAICAです。
AICAのプロジェクトとその仕組み
AICAは、法定通貨にペッグし、例えば1円=1aienを維持することで、給与支払いとしても利用できる、安定した仮想通貨を目指します。
価格を安定させた通貨には、ブロックチェーン協会が発行しているZENや銀行の発行するMUFGコイン、Sコイン、Jコインなどがあります。
これらのコインは価格を安定させるために、協会や銀行の資金を担保にし、中央集権的なシステムの中で管理されています。
一方、AICAは、ブロックチェーン上にAIを用いて、(理論的には)中央銀行の管理の代わりに半中央集権的環境を作り、価格を一定に保つ機能が働くようになされています。
AICAは、法定通貨と仮想通貨の価値を連動させながら、キャッシュレス決済と世界共通通貨の実現化を目指す、ハイブリッドなデジタル通貨です。
4. その他の仮想通貨に関連するハイブリッド化への取り組み
この他にも、様々な仮想通貨に関連するハイブリッド化への取り組みが行われています。
仮想通貨との組み合わせにより可能となる新しいサービスや、現在の取り組みについて見てみましょう。
◾️仮想通貨同士を組み合わせ
仮想通貨同士を組み合わせたものには、ビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)から作られたハイブリッド仮想通貨「Qtum」があります。
「Qtum」は、ビットコインのUTXOを採用し、ブロックチェーン上で匿名性を確保することができる仮想通貨です。
また、イーサリアムのスマートコントラクト機能で、複雑な契約を自動化でき、様々な取引での応用が可能です。
特定のブロックチェーン設定を変更できる、分散型ガバナンスプロトコル(DGP)で、ハードフォークせずにブロックサイズを増やすことができます。
コンセンサスアルゴリズムには、PoSが採用されており、迅速に低コストで取引の認証を行います。
QtumのCEOであるPatrick Dai氏は、中国のアリババの元社員で、グローバルノードは中国、アメリカ、韓国、ドイツなど5大陸に分散しています。
しかし、中国政府は仮想通貨を規制する方針をとっているため、政府の規制を受ける可能性が懸念されています。
公式ホームページ: https://qtum.org/en
ランクと現在の価格: https://coinmarketcap.com/ja/currencies/qtum/
◾️仮想通貨と不動産のハイブリッド化
2018年4月、仮想通貨と不動産を結びつけるハイブリッド・ファンドがドイツで誕生しました。
ミュンヘンのビットリアルキャピタル社は、仮想通貨と不動産に投資するファンドの販売認可をドイツ連邦金融監督庁(BaFin)から受け、ファンドの正式な登録を完了しました。
このファンドでは、仮想通貨に投資しながら、銀行から借り入れた法定通貨のユーロも合わせて、ドイツの主要経済地域の商業用不動産に投資します。
ビットコインやイーサリアムでの投資を受けつけており、仮想通貨保有者による不動産投資の機会を提供することにもなります。
◾️仮想通貨と証券のハイブリッド化
仮想通貨と証券をハイブリッド化する試みでは、2018年12月に発表された、ドイツのシュトゥットガルト証券取引所とソラリスバンクの提携があります。
シュトゥットガルト証券取引所は、ソラリスバンクと提携し、2019年前半に仮想通貨取引所を開設することを発表しました。
シュトゥットガルトの一般投資家は、従来のデリバティブ証券、株式、債券等の金融商品に加えて、仮想通貨のデジタル資産にも投資できるようになります。
ソラリスバンクは、ドイツの銀行としては初めて仮想通貨関連企業に口座を提供した銀行で、ブロックチェーン技術の高度なノウハウも備えています。
今後は、ブロックチェーンのIT技術と銀行サービスを融合し、シュトゥットガルト取引所を支援することになります。
この連携により、仮想通貨の信頼性はさらに高まり、今後、法定通貨と仮想通貨が共存する金融のハイブリッド化が促進されると見られていいます。
参考: https://www.chainage.jp/boerse-stuttgart-exchange-crypto-trading.html
◾️デビットカードによる仮想通貨の利用
仮想通貨とデビットカードのハイブリッド化では、既に2014年から、ビットコインをデビットカードで利用できるサービスが始まっています。
デビットカードは、市場への導入にあたり、”easy-coin”を略した『e-coin』という名称でスタートしました。
ビットコインのカード会社を作ることで、ビットコインを取引所だけで販売するよりスムーズに、一般消費者の日常生活に浸透させるのが狙いです。
創始者のPavel Matveev氏は、自動車のハイブリッドカーのように、従来のクレジットカード技術と、新しい仮想通貨の技術を融合することを目指します。
ビットコイン・デビットカードの無料配布からはじめ、現在では、法定通貨と仮想通貨を容易に交換するスマホアプリの開発、ATMの普及、VISA・Master加盟店等での利用拡大を行なっています。
クラウドファンディングで資金を集め『Wirex』に名前を変え、近年、日本での市場拡大にも乗り出しています。
Wirexのアプリを利用すると、法定通貨でその時のレートでビットコインが購入でき、世界中でビットコインによる買い物の支払いや送金が可能になります。
Wirexデビットカードは、ヨーロッパを中心に既に130か国で利用されており、日本でも、2016年末頃から利用者が増え始めています。
Wirex公式ページ: https://wirexapp.com/
参照: http://hokensc.jp/news/fintech/wirex/
5.ハイブリッド銀行のまとめ
2009年にビットコインが誕生して以来、仮想通貨の進歩はめざましく、今では私たちの生活になくてはならないものになりつつあります。
この10年の仮想通貨とブロックチェーンの技術の歩みは、かつての金融市場の歴史の中では、想像もつかなかった大きな変化をもたらしました。
今後、仮想通貨の利用と金融資産のデジタル化はさらに進み、ベンチャー企業と既存の金融機関との攻防が、より一層激しくなっていくと思われます。
その中で、仮想通貨と法定通貨を融合するハイブリッド銀行の設立は非常に重要な課題であり、今、最も注目されている分野と言えるでしょう。