Facebook 渾身の仮想通貨Libraは失敗だったのか?

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イギリスのヘンリー王子が皇室の公務から引退する際、エリザベス女王に直接伝えずに、SNSで公表したことが話題になりました。

そのSNSは、アメリカ人妻のメーガン夫人が、皇室ブランド『サセックスロイヤル』の広告媒体に利用しているインスタグラム(Instagram)でした。

Instagramは、Facebook(FB)に買収されたFB傘下の企業です。

「Facebookなどもう古い、時代遅れだ」と思っている人も、実は、毎日のようにインスタを利用して、FBに関与していることに気づいていない人も多いかもしれません。

全世界に多くのユーザーを持つFacebookが、2019年6月に仮想通貨『リブラ(Libra)』の発行を発表しましたが、その実現が今危ぶまれています。

背景には人々のFacebookに対する、ぬぐいきれない不信感がありますが、さらに世界各国の思惑もうごめいています。

今回は、メディアでささやかれている、Facebookの仮想通貨「リブラ」の失敗説に迫りたいと思います。

1)Facebookがリブラの発行延期を発表

Facebookが2019年6月に仮想通貨リブラ(Libra)の発行を発表したものの、同年10月には、当面延期することを発表しました。

半年も立たない間に延期となった舞台裏にはどのような事情があったのでしょうか。

◇リブラ発行延期の舞台裏

Facebook(FB)のCEOマーク・ザッカーバーグ氏は、2019年10月23日のアメリカ議会の喚問に際し、リブラの発行を延期することを表明しました。

「Facebookは、米規制当局が認めるまで、世界のどこにおいてもリブラ発行に関与しない」と述べ、2020年の発行延期が明らかとなりました。

これはリブラの、個人情報漏洩の危険性や、マネーロンダリング(資金洗浄)に悪用されることへの、議会の懸念を受けての対応です。

しかし、同氏は、中国がデジタル経済分野で世界をリードし、アメリカが後れをとることに、リブラは対抗できるとその必要性を強調しています。

◇Facebookの暗号通貨発行計画とFB批判の高まり

Facebookが暗号通貨リブラと送金アプリを開発し、2020年半ばのデジタル通貨の発行を発表したのは、2019年6月のことです。

仮想通貨の運営は、民間企業からなる『リブラ協会』が行い、スイスを拠点として活動する計画でした。

当初は、スイス政府も協力的な姿勢で、多くのグローバル企業がコンソーシアムへの参加の意思表示をしていました。

しかし、その発表後、世間各国でFBへの批判が高まり、「既存金融システムを脅かす恐れがあり、資金洗浄(マネーロンダリング)の温床となる」との懸念が広がりました。

7月にトランプ米大統領はFacebookを批判し、「フェイスブックが銀行になりたいなら、米金融機関の規制に従うべきだ」と圧力をかけました。

◇リブラ発行計画が直面している課題

10月にワシントンで開かれたG20サミットで、各国首脳陣の間でも「リブラには深刻なリスクがある」と、当面発行を認めない方針で合意しました。

10月14日に、スイスでリブラ協会が設立総会を開きますが、米金融当局との対立を懸念し、VISAやマスターカードなどの有力企業7社が不参加を表明。

世界各国でリブラ阻止への圧力が強まり、大手金融企業もリブラ協会への参加を見送る結果となっています。

この段階で脱退した企業には、ペイパル(PayPal)、ストライプ(Stripe)、ブッキング・ホールディングス(Booking Holdings)、イーベイ(eBay)、メルカドパゴ(Mercado Pago)などがあります。

リブラ協会(Libra Association)は最終的に、21団体の参加で設立され、ジュネーブで正式に憲章を承認しています。

しかし、その場でも、ゴールドマンサックスやJPモルガンが、ホワイトペーパー発表前から不参加を表明しており、参加企業の不安要因となりました。

◇Facebookの個人情報漏洩の汚名

FB CEOのザッカーバーグ氏が最初に米議会で証言をすることになったのは、2018年4月のFacebook個人情報流出事件の時です。

下院の金融サービス委員会は、FBの個人情報が、イギリスの選挙コンサルティング会社『英ケンブリッジ・アナリティカ』により不適切に共有されたことについて説明を求めました。

クリストファー・ワイリー氏が、一連の疑惑を内部告発した当初は、5000万人だったものが、内部調査により最大で約8700万人の個人情報が、流出していた可能性があることが明らかになりました。

ザッカーバーグ氏は対策が不適切だったことを認め、「利用者に提供するツールがどのような事態を引き起こすのかを予測し、その結果に対して提供者は全面的な責任を取る必要があった」と謝罪しています。

FBでは、検索ボックスにメールアドレスや電話番号を打ち込んで、利用者を検索できる機能があり、同氏は、登録されたプロフィール情報が悪用されていた事実を認め、この機能の廃止を表明しています。

◇Facebookの無料アプリと個人情報

Facebookでは、アプリ開発者がアップする「性格診断」や「出会い系」などの無料アプリが人気です。

ユーザーは、その都度IDやパスワードを登録しなくても、Facebookのアカウントで簡単にログインして、無料でサービスが使えるが魅力です。

一方、システムを提供するアプリ製作者は、管理者として利用者の個人情報にアクセスすることが可能となります。

イギリスの「これがあなたのデジタルライフ」のアプリ製作者が、そのデータを、ケンブリッジ・アナリティカ社に売ったことが、ことの発端でした。

◇大統領選のフェイクニュースのスキャンダル

数千人ものデータを購入した同社が、それらのデータを英国の欧州連合離脱(ブレグジット)を決める国民投票に影響を与えたとして問題視されました。

議会で問題になったのは、トランプ氏が勝利した2016年大統領選で、FB上のフェイクニュースがトランプ氏の大統領当選を有利に導いたという説です。

ロシアがFBを利用して、米国の有権者に影響を与えようとしたのではないかということが、大きなスキャンダルとして議会で取り上げられました。

ケンブリッジ・アナリティカ社による個人情報流用の事実は、このことの裏づけとなるとして、FBの個人情報流出事件に世間の注目が集まりました。

2)仮想通貨リブラとは?

『リブラ』は、もし、その産みの親がFacebookでなければ、ここまで批判されなかったと言われています。

それでは、仮想通貨リブラは、どのようにして誕生したのでしょうか。

◇リブラの開発と子会社カリブラの設立

仮想通貨リブラは、ペイパルの元社長デービッド・マーカス(David Marcus)氏が、イーベイ傘下のペイパルを去り、2014年6月にFacebookでモバイルメッセージング部門を統括することから始まりました。

マーカス氏の提案した仮想通貨の案に、以前から自社コインの発行を考えていたザッカーバーグ氏はいち早く対応します。

ザッカーバーグ氏は、すぐにえり抜きの技術者を集め、暗号通貨の開発をスタートし、ウォレット開発の子会社「カリブラ」を設立します。

マーカス氏はカリブラの社長に就任し、デジタル通貨の開発を先導して、リブラのホワイトペーパー発表まで漕ぎ着けました。

完成した新通貨は、出資金を出す複数の民間企業からなるコンソーシアムで運営管理し、Facebookは直接関与をしないというのが大きなポイントでした。

リブラ発行の際にユーザーから得た資金は、各企業が運用管理し、リブラの通貨価値を保証するシステムです。

◇スマホを使った簡単な送金システム

ユーザーは、スマホにカリブラのウォレットをダウンロードするだけで、銀行口座を介さないで、簡単に送金ができます。

アフリカなどの多くの地域では、銀行口座を持たない人が多く、それらの人々が携帯さえあれば、賃金などの資金を受け取ることができます。

SNSの中でも、Facebookのユーザー数は圧倒的に多く、FBだけでも全世界で24.1億人の利用者がおり、ユーザー間で迅速・低コストで送金できます。

低コストで使いやすい有効な送金や決済の手段を提供することで、銀行口座を持たない新興国の人々の経済活動を支援する狙いがあるとのことです。

◇リブラによる安価な海外送金

Facebookの主張では、新興国の銀行口座を持たない人々も含めて、全世界の人々が、平等に富をわかちあえる社会を作ることに貢献するという考えです。

リブラ協会には慈善事業団体も参加し、世界の貧しい国の人々をサポートする大義名分があります。

しかし、国境を越えて自由に資金を動かすことで、貿易などの海外送金手数料で利益を得ている既存金融機関が、利用者を失うことになります。

通常、免許証やパスポートで身元確認をして口座開設をしますが、そのような本人確認の取られていない送金が、世界中で発生することになります。

3)仮想通貨リブラの特徴

デジタル通貨「リブラ」が問題視されているのは、仮想通貨ビットコインとは異なった、リブラ特有の性質です。

リブラ の特徴の何が、このように激しく問題視されているのかについて、管理面から見てみましょう。

◇企業が開発・管理する仮想通貨

仮想通貨リブラは、GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)と呼ばれる4大IT企業の一つ、Facebook社が開発したコインです。

他の企業にはGoogle、Amazon、Appleがあり、これらのIT企業には多くの情報が集中し、国境を超えて影響力を持っています。

企業がデジタル通貨を発行することで、従来の仮想通貨「ビットコイン」ではなかった混乱が生じるのではないかとの懸念があります。

リブラの管理は、スイスに本部をおく企業集団(コンソーシアム)で行われ、運用については、参加企業が協議しながら決められていく予定です。

問題点は、運営団体の設立前にリブラの発行が発表され、ルールが決められないままに、試験運用が始められていることへの懸念です。

◇ビットコインなどの仮想通貨との違い

ビットコインのような仮想通貨では、取引はブロックチェーン上で完結し、記録を分散させ、誰でも情報が閲覧できるようオープンになっています。

そのため、第三者が勝手にデータを改ざんしたり削除したりすることができず、信頼性があり、一部の権力者によって操作されることはありません。

しかし、リブラは、企業が通貨を管理するかつてない試みであり、予測できない要素が多数存在しています。

暗号通貨を発行するシステムは作れても、運用ルールができていないため、情報漏洩や不正が起きた時の責任関係が曖昧です。

FBは、いずれはビットコインのような完全なブロックチェーン上で動く民主的な通貨に移行するとしていますが、いつ実行するのか何一つ未定です。

◇運営団体における問題点

運営団体のリブラ協会は、100社以上の企業で構成し、運営方針を参加企業で協議しながら決めてゆく予定です。

しかし、リブラそのものを構築したFacebookが、リブラ協会の中で支配権を握り、通貨の運用に多大な発言権を持つことが予想されます。

リブラにおける取引の処理は、本来のブロックチェーン技術に基づく民主主義的な決済ではなく、中央集権的な組織で管理される懸念があります。

送金に使われるウォレットのアプリも、Facebookが開発したCalibra(カリブラ)が使われ、リブラ協会は実質Facebookとみなされます。

フェイスブックが発行・管理するリブラは、民主主義的な管理の行われるブロックチェーン上の仮想通貨とは、性質の異なる仮想通貨です。

4)リブラは失敗なのか?

ブロックチェーンのシステム面や運営団体の問題で、リブラは実質上、発行が危ぶまれる状態に陥っています。

各国の反応や、経済人のリブラの将来性に対する見方について、いくつか紹介します。

◇リブラ協会の本拠地であるスイスの反応

2019年12月、スイスのウエリ・マウラー(Ueli Maurer)大統領兼財務相は、「リブラは、現在の形では失敗している」との見解を示しました。

同氏は、スイスの公共放送SRFで、「スイス中央銀行は、リブラで預けられた主要通貨(米ドルやユーロ、日本円)を受け入れるつもりはない」と、リブラを否認する発言をしています。

また、「スイス中央銀行の支援が得られないリブラは、スイスで仮想通貨として成功するチャンスはないだろう」とリブラの失敗を予測しています。

◇デジタル通貨政策を推進する中国の反応

中国議会の元高官が、「世界で最初にデジタル通貨発行するのは中国中央銀行であり、フェイスブックのリブラは失敗するだろう」と語りました。
上海で開かれたサミットのスピーチの中で、財政経済委員会の副主任をしていた黄奇帆氏は、民間企業の暗号通貨発行に関して、

「一部の企業はビットコインやリブラを発行して国家通貨に挑戦しようとしています。分散型のブロックチェーン基盤の通貨は国家信用によって支えられておらず、真の財産になるのは困難です。」

と語り、リブラが失敗に終わることを強調し、中国の暗号通貨への自信と優位性について語りました。

中国は国家レベルでブロックチェーン戦略を展開し、既に、デジタル通貨を発行するための暗号法が、中国の議会を通過しています。

中国は、2014年に仮想通貨の研究を開始し、2017年にデジタル通貨研究所を設立して「デジタル通貨電子決済(DCEP)」を開発しています。

◇経済制裁と各国の思惑

経済界の見解では、FBは「各国政府の『通貨発行権』という聖域に土足で踏み込む行為であるため、各国から許されるはずがない」というものです。

アメリカは、核ミサイルや最新戦闘機を保持する世界最大の軍事国ですが、湾岸戦争にみられたように、若者の血を流す戦争を国民は支持していません。

トランプ氏の中国との貿易戦争に見られるように、各国の覇権争いでは「経済制裁」が多用され、その金融制裁が国政の重要課題となります。

また、政府は、金融機関をコントロールしながら、武器の密輸を繰り返す国家や組織を追跡し、「マネーロンダリングやテロ資金対策」を行なっています。

リブラはその「金融覇権」を根底から崩す新しい送金システムを、FBの28億人のユーザーを利用して始めようとしているわけです。

そのような行為が、国家権力から見て許されるわけもないのが、「Facebookリブラは失敗している」とささやかれている真相なのかもしれません。

5)最後に

「もし、リブラが、Facebookではなくてペイパルであったら、このような批判は起きなかったであろう」というのが多くの人々の見解です。

ハーバードの寮で、初めて出会い系アプリを作ったザッカーバーグ氏が、どれほど頑張れば、アップル創始者のS.ジョブズになれるのでしょうか。

どれだけ素晴らしい技術や発明であっても、世界を動かすには、時間と実績が必要です。

Facebookの個人情報漏洩のニュースは、忘れた頃にまた、流れ続けているのが現状です。

しかし、リブラによって、企業と国家の覇権争いの幕は、すでに切って落とされました。

時代は確実にデジタル通貨へと移行し、かつて貝塚で発見された貝殻のように、紙幣や硬貨が発掘される時代も、遠くはないのかもしれません。

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【参考】まもなく海外銀行口座開設の受付