仮想通貨のブロックチェーン技術を農業に活用

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近年、日本の農家は、若者の農業離れで人手不足に陥り、生産規模の縮小を余儀なくされ、また、後継者がいない深刻な問題を抱えています。

農家の高齢化が進み、輸入農作物に対する競争力は低下し、日本が自国民の食料を自給自足できる時代は、すでに過去のものとなってしまいました。

食料の多くを輸入に頼り、農薬による汚染遺伝子組み換え食物の不安を抱えながらも、海外からの食材に頼らざるを得ない状況です。

TPPで外国から安い食物が入ってくれば、日本の農家は価格競争に負け、廃業を余儀なくされて、海外食品への依存度は今後さらに増えるとみられます。

日本の農業力を回復させるために、近年、IT技術の導入がようやく始まりましたが、その中で今注目されているのが、ブロックチェーンの技術です。

仮想通貨で活用されている、ブロックチェーン技術が、農業をどう変えていくのか、現在取り組まれている様々な新しい取り組みをご紹介します。

農水省HPより

ブロックチェーンを農業にどう活用するのか?

農産物は、様々な仲介業者を経て消費者に届きますが、店頭で購入する消費者はその流通過程を明確に知ることはできません。

一般の消費者は、ラベルに表示された内容を鵜呑みにして買うしかなく、そのため、農産物の「産地偽装」「食品汚染」が深刻化しています。

世界保健機関(WHO)の調査では、世界で年間42万人が食品汚染のため死亡しており、そのうち3分の1が5歳以下の子供というデータを公表しています。

食品輸送が国際化し、各国の薬品に関する法律も異なるため、汚染経路を突き止めるのに時間がかかり、被害の拡大を食い止めることが難しくなっています。

そこで、仮想通貨で活用されている「ブロックチェーン技術」によって、サプライチェーン(供給網)の透明化を図ることで、食品の安全性を確かなものにする試みが、今世界各地で始まっています。

農業のサプライチェーンにブロックチェーン技術を導入

例えば、食中毒が起きた場合、汚染は既に拡散していて、流通ルートを追跡しても遅すぎるという課題があることから、対策として供給経路の可視化という考えにつながりました。

全取り引き情報の記録に優れた仮想通貨のブロックチェーン技術を、農業のサプライチェーンにも活用し、食の安全性を確保し、食品偽装を防止する実証実験がおこなわれています。

ブロックチェーン技術による追跡性の特徴が、食品のトレーサビリティにおいて具体的にどのように活用されているのかについて紹介します。

ブロックチェーンの追跡性を活用した食品トレーサビリティ

食品のトレーサビリティとは、農産物の供給経路を遡って、市場に流通している農作物や加工食品の生産者を明らかにするシステムです。

ブロックチェーンに情報を記録することで、その農産物がいつどこで、誰が生産し、どのような流通経路を通って小売店まで届いたかが分かります。

消費者は、自分たちが口にする食品を、生産者まで遡って知ることができ、安全で付加価値の高い食品を選んで購入できます。

もし、O-157などの食中毒が発覚すれば、すぐさま発生元を突き止めて、食品を回収し、汚染が拡散するのを防ぎ、被害を最小限に食い止めることができます。

一方で、末端の消費者も、直接、生産者とつながり、産地や農産物の鮮度などを知ることができます。

食品偽装防止とブランドの保護・育成

ブロックチェーンには、記録を改ざんできない性質があるため、食品偽装を困難にし、生産者のブランドを守ることができます。

食品偽装のなかでも多いのが、産地偽装で、加工・流通・販売の過程で、取り扱い業者による産地表示のすり替えが後を絶ちません。

このような企業のモラルの低下に対しても、ブロックチェーン技術の導入によって、食品偽装の抑止力となると期待されます。

また、偽装表示がなくなることで、生産者は、市場における唯一のブランドを守ることができ、農家のユニークなビジネスを育成することができます。

流通過程の可視化で可能となる新しいビジネスのあり方

農産物は大きく分けて、生産・加工・流通・販売の過程を経て、消費者のもとに届き、その間には複数の卸売業者が介在しています。

ブロックチェーンの技術を取り入れたシステムにより、卸売業者も価格の変動を可視化できるため、適正価格を模索しながら、仕入れの調整ができます。

また、流通経路の仲介者がそれぞれに、出荷数量・価格・流通コストの情報を共有し、需要と供給に基づいた、健全な農作物の価格が実現されます。

小売店においても、直接生産者と取引ができれば、中間業社のコスト削減でき、特定商品に特化した販売戦略も立てやすいというメリットがあります。

生産者は、農産物がどのような経路で流通しているのかをリアルタイムで知ることにより、需要と供給量に基づいた、生産計画や出荷準備が可能になります。

 

では次に、ブロックチェーン技術が導入されて話題となった、宮崎市綾町の農家のトレーサビリティーの実証実験について見てみます。

宮崎市綾町の農家の実証実験例

綾町は宮崎の一級河川・本庄川の上流に位置し、1970年代から豊かな自然環境の中で育った有機野菜を、付加価値をつけて市場に供給してきました。

2001年には、自治体としては全国で初めて「有機JAS登録認定機関」に登録され、独自の厳しい3段階の基準にランクづけして、野菜を出荷してきました。

新しく導入されたトレーサビリティーの実証実験は、綾町の有機野菜が消費者に届くまでの過程を可視化することで、偽装を防ぎ、ブランドを守るものです。

IoTセンサーを使った出荷の流れ

レタスの収穫から出荷までの流れでは、LTEでネット接続されたIoTセンサーをレタスと一緒にダンボールに詰めて梱包するところから始まります。(※IoT:Internet of Things)

IoTセンサーを詰めた箱には、NFCタグが付けられ、出荷時に撮影した野菜の画像と共に、生産者の情報がサーバーにアップロードされます。

IoTセンサーは、出荷ルートはもとより、箱に伝わる振動や、温度・湿度などのさまざまな情報をブロックチェーンの台帳に記録していきます。

消費者は、店頭でQRコードを読み取り、生産者のサイトにアクセスして、栽培状況や輸送経路などの情報や商品画像をタイムラインで確認できます。

徹底管理で守る農家のブランドと食の安全性

内蔵された照度センサーにより、店頭に届くまでに、途中で違法に開封されれば検知することができ、野菜の輸送状態を監視できます。

中身をすり替える産地偽装を防止し、屋外に放置されたり、不適切な環境で輸送されたりするのを防ぎ、流通段階の品質管理を徹底させることができます。

さらに、肥料の成分が分かるように、過去3年間に測定した生産地の土壌データを載せ、農薬未使用の有機野菜の品質を証明します。

消費者はスマホ端末で、農産物の生産環境や輸送状況のデータにアクセスし、優れた農産物を買うことで、遠隔地の農家の活性化に寄与することができます。

世界各国の食の安全を守るプロジェクト

ブロックチェーン上で情報を公開し、食品への信頼性を高める試みは、既に世界各地で始まっており、食品の流通システムが今大きく変わろうとしています。

中国のアリババによる「フード・トラスト・フレームワーク」

2017年3月、中国のネット通販会社アリババ・グループは、大手企業と共同で、偽造商品を追跡するシステムを開発していることを発表しました。

「フード・トラスト・フレームワーク」はブロックチェーン技術を用いた食品流通トラッキング・システムで、偽造商品を追跡するプロジェクトです。

IBMの開発した「グローバル・フード・セーフティー」

IBMは、食品供給の安全性を高めるため、2018年8月に、ブロックチェーンの技術を活用した、食品トレーサビリティのプロジェクトを発表しました。

新設された「グローバル・フード・セーフティー」には、ネスレ、ウォルマート、ユニリーバ、Dole、クローガーなどのグロバール企業が参画しています。

国際輸送の不透明で厳しい環境のなか、食品の供給ルートを追跡し、汚染が発覚したら直ちに汚染源を確定して回収し、被害の拡大を防ごうというものです。

法律や言語の異なる流通段階の当事者達が、このプロジェクトのもとにつながり、追跡可能なシステムを共有することで食品供給者のモラルを高めます。

米国ウォルマートの食品の衛生管理の取り組み

アメリカの大手スーパーWalmart(ウォルマート)は、レタスなどの食品の衛生管理に、ブロックチェーン技術を活用する取り組みを始めました。

大腸菌ウィルスによる被害が出たことに端を発し、食中毒を未然に防ぐため、生産農家に、野菜の情報をブロックチェーン上に記録するよう求めています。

ウォルマートは、食品の品質管理を徹底し、問題が発生した場合に迅速な対応ができるシステムを、2019年9月に正式に立ち上げると発表しています。

オランダのアルバート・ハインのオレンジジュースの品質保証

オランダの大手スーパーマーAlbert Heijn(アルバート・ハイン)は、オレンジジュースの品質の保証に、ブロックチェーンの技術を導入しています。

アルバートのオレンジジュースの生産者である、ブラジルの「Refresco(レフレスコ)」に、ジュース加工や輸送段階の情報の記録を依頼しています。

オランダのスーパーの店頭で、消費者は、製品ラベルに印字されたQRコードをスキャンすることで、品質と安全性を確認して購入することができます。

農業ビジネスの新しい在り方

ブロックチェーンの技術は、売り手と買い手をリアルタイムでつなぎ、遠隔地の農業ビジネスの在り方にも、大きな変化をもたらしつつあります。

オーストラリアの農作物の取引システム「AgriDigital」

「AgriDigital」は、オーストラリアFull Profile社が開発したブロックチェーン技術を用いた農作物の供給管理システムです。

生産者と買い手が、「AgriDigital」のサイトを通して、契約・出荷・輸送・請求・決済を、手持ちの端末操作で、簡単・迅速に、実行・確認できます。

取引価格をリアルタイムで確認して、生産者はサイト上に、市場に則した希望価格を設定し、買い手がそれを落札する、スムーズな取引を可能にしました。

生産者は作物を、希望の販売価格になるまで保冷倉庫で保管したり、生産量を減らして値崩れを防いだりして、廃棄処分が起きないよう調整できます。

システムは、仮想通貨の取引所のような仕組みで、売り手と買い手が希望の価格を設定し、価格が合意されると取引の成立となります。

ブロックチェーンのスマートコントラクトの技術を活用し、取引が成立すると、自動的に契約書が作成され、請求書が発行され、出荷の手配が始まります。

売り手と買い手は、価格や出荷状況に関する情報を、手持ちの端末で確認しながら、市場の動向に合わせて入札価格を更新できます。

インドの金融機関が開発した「サプライチェーン・ファイナンス」

「サプライチェーン・ファイナンス」は、IBMとインドのマヒンドラ・グループが共同開発した金融システムで、取引のコスト削減とスピード化を図るものです。

買い手は、船荷証券の内容をブロックチェーン上に記録することで、貨物を受け取る前に銀行融資を受け、円滑な荷受と、迅速な販売準備ができます。

いっぽう、売り手である農作物の生産者は、代金を遅延なく受け取り、資金を確保して、次の生産計画に取り組むことができます。

環境保護と経済格差の改善への取り組み

ブロックチェーンの技術は、生産者と消費者をつないで、新しい農業ビジネスの形を作るほか、環境保護や世界の経済格差の解消にも威力を発揮しています。

RSPOが構築したヤシ油の認証システム

RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)は、発展途上国の作物の乱獲を防止し、持続可能なヤシ油の生産・供給をサポートするために発足しました。

インドネシアとマレーシアで生産されるヤシ油は、主に食品・化粧品・バイオ燃料の原料とされ、その過剰な需要が森林破壊の原因となっていました。

利益のみを重視した森林伐採を取り締まり、健全な供給量を保つために、生産・輸送・流通を一括管理するシステムを構築したのが、RSPO認証システムです。

RSPOが定めた基準を満たしている生産者や供給者に認証が発行され、製品にRSPOのマークを表示して、流通情報をブロックチェーン上に記録します。

認証プロセスにより、環境保護を実現しながら、消費者の作物に対する信頼や安全性を確保し、生産者・流通者・小売業者に業務の効率化をもたらします。

エチオピアのコーヒー豆の流通管理システム「Cardano」

イーサリアムを共同設立したチャールズ・ホスキンソン氏は、後に、ブロックチェーンの技術を応用したカルダノ(Cardano)の開発に携わっています。

「CARDANO(カルダノ)」とは、エチオピアの主要産物であるコーヒー豆の原産地や生産者の情報をブロックチェーン上で管理するプロジェクトです。

バイヤーや消費者は、コーヒー豆の生産・輸送過程を追跡できるほか、生産者は需要と供給を見ながら、理想的な生産体制を築くことができます。

さらに、土地登録をすることで、発展途上国の土地所有者が、適切な所有権の記録がないために、自らの土地を追い出される悲劇から救うことができます。

発展途上国の生産者を支援する「フェアトレード」

ブロックチェーン技術の導入は、環境保護にも貢献するほか、発展途上国と先進国の経済格差の解消にも役立つと期待されています。

現在に至るまで、発展途上国の生産者が、不当に安い価格で作物を買い取られ、仲介業者が暴利を得るという国際貿易の仕組みが存在してきました。

生産者と消費者がつながることで、生産者の権利と利益を守ろうとする「フェアトレード」の考え方が、欧米を中心に広がりつつあります。

先進国が発展途上国の原料や製品を、適正な価格で、継続的に購入することで、生産者や労働者に公平な賃金をもたらし、経済格差を埋めようというものです。

消費者は、「フェアトレード」のマークのついた商品を購入することで、発展途上国の人々の生活を、間接的に支援することができます。

まとめ

仮想通貨を生んだブロックチェーンの技術は、その追跡性や、データ改ざんができない性質が、食の安全やブランドの保護・育成に役立てられています。

食品流通のグローバル化が進むなか、食品汚染が発覚した時点で、即座に発生源を突き止めて回収し、汚染の拡大を未然に阻止することが可能です。

産地偽装をなくし、消費者はスーパーの店先で、生産地や加工の過程、成分の含有量までもQRコードで確認し、安全な食品を選んで買うことができます。

生産者とバイヤーは、より適正な価格で取引をし、迅速に出荷・販売することで、ビジネスのコスト削減と質の向上が実現されます。

また、供給量を制御して発展途上国を環境破壊から守り、生産者・労働者が適正価格の恩恵を受けられるよう、国際間のフェアトレードが促進されます。

農耕機が田植えのやり方を大きく変えたように、ブロックチェーンは農業ビジネスを根底から変えようとしており、今後の展開に熱い視線が注がれています。

 

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