フェイスブックが開発した仮想通貨「Libra(リブラ)」とは?

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ハーバード大学のドミトリーで、モテない青年が、イケてる女子に投票するサイトを作り、一躍、寮の人気者になった映画を見た記憶はないでしょうか。

2010年の米映画『ソーシャル・ネットワーク』の主人公こそ、フェイスブックの最高責任者(CEO)マーク・ザッカーバーグ氏です。

彼は仲間とともに、世界中にユーザーを持つSNSの巨大企業を誕生させ、現在、独自の仮想通貨を開発し、世界の金融業界に乗り出そうとしています。

2019年7月

IMFやG7で議題となったのは、まさに、今回彼が生み出した、銀行口座をモテない人々を救う、仮想通貨「Libra(リブラ)」の発行計画でした。

国際通貨基金(IMF)は、2019年7月15日、フェイスブック(FB)が開発した仮想通貨Libra(リブラ)に関する報告書を発表しています。

報告書は、「リブラにより各国の金融政策が機能しなくなる可能性があり、国際的に協調して、仮想通貨の規制枠組を作る必要がある」と提言しています。

さらに、7月17日、日米欧先進7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁会議がフランスで開かれ、リブラ規制の必要性について初の討議が行われました。

なぜ、金融機関や各国政府が、リブラの発行に危機感を持ち、規制の必要性を討議しているのか、疑問に思う人も多いのではないでしょうか。

同じ仮想通貨でありながら、ビットコインではなく、なぜ、リブラがそこまで問題視されているのでしょうか。

仮想通貨リブラとはどのような通貨で、どんな組織で運用されていくのか、開発元のFBとはどのような会社なのかについて、ご紹介していきます。

■Libraの仕組みとその運営団体とは?

フェイスブック(FB)は、2019年6月18日に、仮想通貨「Libra(リブラ)」のホワイトペーパーを公表し、2020年に発行予定であると発表しました。

仮想通貨のリブラを使用すれば、銀行口座がなくても、携帯アプリのウォレット「Calibra(カリブラ)」を使って、送金や買い物ができます。

マーク・ザッカーバーグ氏は、「リブラは数十億人をエンパワーするシンプルな国際通貨のインフラであり、途上国の人々を支援するものだ」と語ります。

◇ドルと連動する決済通貨リブラ

フェイスブック(FB)が開発した仮想通貨Libra(リブラ)は、ドルと連動するデジタルな決済通貨で、“半中央集権型”のシステムで管理・運用されます。

リブラは、その価値を主要な法定通貨や国債で担保し、ドルと連動させて価格を安定させ、1リブラを1ドルに保つ予定です。

投機対象の仮想通貨とは異なり、日常生活の決済通貨として利用できる、国境を超えたグローバルなデジタル通貨を目指します。

◇リブラの運営団体Libra Associationとは?

リブラは、半中央集権型の仮想通貨で、フェイスブックを含む100の団体からなる企業連合により管理される予定です。

リブラの運営会社は、スイスのジュネーヴに本社をおくLibra Association(リブラ・アソシエーション)で、フェイスブックから独立した非営利組織です。

リブラ・アソシエーションの組織設立に際して、現在、多くのグローバル企業が参加を表明しています。

既に参加を発表している企業に、

・VISA、マスターカード、ペイパルなどの決済会社
・イーベイ(ebay)やストライプ(Stripe)などの通販サイト
・コインベースなどの仮想通貨取引所
・ボーダフォンなどの通信会社
・Lyft、Uber、スポティファイといったサービス提供会社
・スライヴやアンドリーセン・ホロウィッツなどのヴェンチャー企業
・KivaやWomen’s World BankingなどのNPOファイナンス組織

などがあります。

◇リブラの半中央集権型システム

参加企業は、それぞれ資金を出し合い、組織の一員としてリブラを監督し、ブロックチェーンの動作環境や資金を管理します。

組織の運営方針は、今後、参加企業の話し合いで民主的に決められていく予定です。

各企業は、リブラを使用したサービスを提供し、仮想通貨リブラを使ったグローバル・ビジネスを展開してゆく予定です。

事業展開に際しては、提供する地域で必要な許可を申請する必要があり、現在準備段階にあるようです。

インドは、仮想通貨の規制政策をとっていますが、FBユーザーが多く、リブラの送金実験の展開が噂されています。

◇仮想通貨LibraのためのウォレットCalibra(カリブラ)の開発

フェイスブック(FB)は既に、仮想通貨Libraを携帯アプリで使用するための、ウォレット「Calibra(カリブラ)」を開発しています。

カリブラは、無料でダウンロードして、FBの対話アプリ「Messenger」や「WhatsApp」上で利用できるようになる予定です。

FBはメッセージアプリや写真共有サイトなどの多くの子会社を持ち、サービスを利用する世界約27億人のユーザーに、ウォレットを提供する予定です。

また、リブラ用デジタルウォレット「Calibra(カリブラ)」は、フェイスブックの子会社Calibraで管理・運営してゆく予定です。

運営会社カリブラの責任者は、以前ペイパルの代表だったデヴィッド・マーカス氏で、マーク・ザッカーバーグ氏にリブラを提案した発案者です。

◇リブラの目的や狙いとは?

リブラ開発の目的は、銀行口座を持てない人でも、携帯さえあれば使えるデジタル通貨を普及させて、経済格差をなくし、真の民主化をはかることです。

ザッカーバーグ氏は、リブラを、「金と正義と自由の結晶」を達成するために開発したと語ります。

新通貨を「リブラ」と名付けた理由を3つあげています。

・古代ローマで使われていた通貨の単位(リーブラ)だったこと
・占星術において正義の秤(天秤座)を意味すること
・そして発音がフランス語で「自由」を意味する「libre」に似ていること

また、世界の人々に、フェイスブックとは切り離して、リブラを、信頼できる新しい仮想通貨として、広く利用してほしいと語っています。

しかし、一方で、その崇高な目的に反し、FBの金融事業への進出は、政治家や規制当局の神経を逆撫でし、既存の金融システムとの対立を深めていきそうです。

■仮想通貨リブラに対する各国の警戒的な反応

規制当局は、フェイスブックの過去の個人情報流出における不始末から、新通貨の個人の金融データについて適切な管理ができるのか疑問視しています。

リブラの背後にはグローバル企業が存在し、リブラ運営組織の巨大なコンソーシアムは、既存の金融機関と顧客を奪い合うのではないかと懸念しています。

各国の反応は、金利政策の機能低下への危機感とマネーロンダリングへの悪用、IT企業の脱税の抜け道などを指摘しています。

◇各国の金利政策が機能しなくなることへの危機感

インフレで物価が上昇し、通貨の価値が落ちてくると、法定通貨がデジタル通貨にとってかわるリスクが挙げられています。

国家は自国の法定通貨の金利を上げ下げすることで、金融政策を行なっていますが、仮想通貨に人々が流れてしまうと、その効果が薄れてしまいます。

すなわち、政策金利の変更で景気をコントロールする、国の金融政策の効力がなくなります。

また、デジタル通貨が普及することで、銀行の預金も減少し、各国の中央銀行の規制が及ばない、巨大な経済圏が出現するのではないかと懸念しています。

◇不正取引(マネーロンダリング)への対応力の欠如

麻薬や武器などの不正取引に、リブラの送金が悪用される可能性や、テロ組織のマネーロンダリング(資金洗浄)に使われる危険性が指摘されています。

リブラの管理団体となる、リブラ・アソシエーションの組織がまだ完成していないため、問題が起きた時に、誰がどう対処するのかが決まっていません。

リブラが、シャドーバンキングとなるなどの不正行為があった場合に、リブラ・アソシエーションが、どのような権威をもつのかはまだ不透明です。

現時点では、日本のように、仮想通貨を財務省の管轄下において、規制しながら管理・育成しようとしている行政機関は、世界ではまだ多くありません。

また、リブラ・アソシエーションの参加企業のサイトで、ウォレットに入力された通貨が、ハッキングされて外部に流出することも考えられます。

リブラで取得した個人情報が、クレジットカードや保険といった金融ビジネスの勧誘に使われ、顧客獲得の手段として不当に利用される可能性もあります。

◇個人情報流出の問題

米議会で特に問題となったのは、マーク・ザッカーバーグ氏の国会喚問にまで発展した、FBの過去の個人情報流出などの管理体制です。

FBのデータ管理に対する疑惑の引き金となったのは、英コンサルティング会社への、大規模なフェイスブック利用者の個人情報の流出です。

以前から「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業が、利用目的を明確に知らせずに個人情報を収集し、不当に利用することが問題視されてきました。

公正取引委員会は、FBをはじめとするGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)のような企業の情報収拾は、独禁法違反にあたるとも指摘しています。

◇経済制裁の迂回やIT企業の脱税の抜け道

デジタル通貨が普及することで、銀行の預金残高も減少し、既存の金融機関の送金ビジネスも打撃を受け、行く末は、各国の税収にも影響します。

また、リブラが、コンソーシアム(大手IT企業で組織された団体)で管理されるため、巨大IT企業の脱税手段として利用される懸念があります。

企業は資産を仮想通貨リブラで保有すれば、税金逃れや経済制裁の迂回を、比較的容易に行えます。

各国の中央銀行の規制が及ばない巨大な経済圏が生まれ、政府が違法行為に制裁を加えようとしても、国境を超えて制裁を加えることは困難です。

そもそも、コンソーシアム自体がまだ確立しておらず、責任の所存があいまいで、納税面のルールもないために、混乱を招く恐れがあります。

■仮想通貨リブラに対する好意的な反応

リブラは、フェイスブックが開発費をつぎ込み、社内の優秀なスタッフを募って完成させた、次世代のデジタル通貨です。

また、リブラ・アソシエーションに将来性をみる企業も多く、国際デジタル通貨リブラとの共存の道を、模索している国家や金融機関もあります。

フェイスブック側も、人々の懸念を払拭するために、システムの安全性を確保する方向で、努力しているようです。

◇リブラに好意的な反応

参加を希望するグローバル企業は、リブラでマイクロペイメント(日常的な少額決済)ができるシステムが可能になると、好意的な反応を示しています。

また、NPO団体は、銀行口座をもたない人々への金融サービスが可能になり、従来ではできなかった慈善活動ができると期待しています。

参加団体は、仮想通貨の実用化に貢献でき、デジタル通貨への信頼性を高めながら、リブラを使った取引で収益を拡大できると、前向きにとらえています。

◇仮想通貨と共存するための各国の対策

今後の金融機関とデジタル通貨には、「共存」「補完」「乗っ取り」の三つのパターンが考えられると言われています。

「乗っ取り」は、前述の政府や金融機関が懸念している点ですが、企業の通貨発行を許可制として「共存」「補完」の道を模索する動きもあります。

「共存」するには、既存銀行のように、仮想通貨の発行元に、準備金を各国の中央銀行に預けることを義務付けるなどの制度作りが提案されています。

リブラを、各国の財務省の管轄下におき、規制対象にするほか、リザーブ資金の運用利益に課税する「デジタル課税」も提案されています。

リブラ本社のあるスイスや、シンガポールなどの世界の国々の間で、法人税の国際的な最低税率の取り決めをする必要性が挙げられています。

◇フェイスブックの対応

フェイスブックでリブラ事業を統括するデビット・マーカス氏は、

・政府より適切な承認を受けるまで、リブラを提供しない
・利用者の同意なしに、FBが取引データを利用することはない
・リブラが各国の金融政策に立ち入り、既存通貨と競うことはない

と訴えています。

リブラ・アソシエーションの設立はこれからということもあり、今後の世界通貨リブラの展開に期待が集まっています。

ところで、このように世間の話題となるフェイスブックとは、そもそもどのような会社なのでしょうか。

なぜ、ビットコインではなく、リブラがこのように取り沙汰されるのかを考える前に、フェイスブックのSNSビジネスについてみてみましょう。

■新通貨Libraを開発したフェイスブックとは?

ビットコインはもとより、金融機関や政府が開発しているデジタル通貨も含めて、現在、世界には、多くの仮想通貨が存在しています。

ではなぜ、フェイスブックのリブラが、このように問題視されるのかを、疑問に思う方も多いかもしれません。

フェイスブックとはどのような会社なのか、また、リブラ発行計画の裏側と、フェイスブックのリブラ事業の取り組みについてみてみましょう。

◇フェイスブックの企業展開

フェイスブックは、2004年4月に、米カリフォルニア州に設立されたソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の会社です。

ザッカーバーグ、モスコヴィッツ、サベリンによって設立され、初期にFBに関わった人物には、YouTubeの創始者の一人、スティーブ・チェンもいます。

FBは、2012年2月に最初の株式公開を行い、10月にはユーザー数が10億人を突破し、2017年初頭の全世界のユーザー数は18億人を超えています。

2018年末までに約80社を買収しており、2012年4月には、グーグルと競い合った末、約10億ドルでInstagramを買収しています。

その他にも、FBのグループ会社には、メッセージアプリの「WhatsApp」、バーチャル・リアリティのヘッドマウンテン「Oculus VR」などがあります。

アジアでは、2008年5月に日本語版が公開され、台湾での普及もめざましく、また、世界では、インドのユーザー数はアメリカに次いて多くなっています。

◇フェイスブックの特徴

一般ユーザーは、自身が開発したアプリを、無料アプリとして、フェイスブック上で公開することができます。

そのため、FBは、世界中でアップされる膨大な数のアプリを、無料ツールとして提供し、ユーザーは多様なサービスが利用できるメリットがあります。

実は、フェイスブックが世間の疑惑の対象となった、過去の個人情報の流出と、無料アプリには大きな関係があります。

◇FBの過去の個人情報の流出事件

政治・選挙関連データ分析企業の、ケンブリッジ・アナリティカ社による、FBの個人情報の流出が、スキャンダルとして大きく報じられました。

2016年の大統領選で、トランプ陣営が、同社を通して、約5,000万人のFBの個人情報を不正利用したのではないかとの疑惑です。

同社は、協力企業である英国のSCLを通して、ケンブリッジ大学の研究者が、FBに公開したアプリで得た個人情報を、流用したとみられています。

2018年4月、約8,700万人のFBユーザーの情報が流出していたことが報じられ、ザッカーバーグ氏は、連邦議会の公聴会に召喚されています。

現在でも、フェイスブックへの個人情報の管理に対する不信感は根強く、今回の世界各国のリブラの規制への動きとなっているようです。

■FBを仮想通貨リブラへと導いたSNS情報ビジネス

フェイスブックのような上場企業で、なぜこのような大規模な個人情報の流出が起きたのかについて、SNSの情報ビジネスについてみてみましょう。

◇診断系アプリとフェイスブックの個人情報流出事件

個人情報漏洩の発端は、ケンブリッジ大学の研究者が、性格を診断する「診断系アプリ」を、2013年にフェイスブック上で公開したことに始まります。

FBユーザーが、無料アプリの性格診断を受けるために入力した個人情報が、アプリ製作者を通して、ケンブリッジ・アナリティカ社に流出してしまいました。

ユーザーは、「診断系アプリ」の利用規約に同意し、その結果、FBに登録されていた住所氏名や個人的な情報が、外部企業に渡る結果となってしまいました。

疑惑が報じられた直後にFBの株価は下落し、「FANG(Facebook、Amazon、Netflix 、Google)の一角が崩れた」と、株式市場に衝撃が走りました。

FBはその後、API(Application Programming Interface)の公開の仕方や、プライバシー・ポリシーの見直しを公表し、ユーザーの信頼回復に努めています。

現在でも、FBの一日あたりのDAU (アクティブユーザー数)は、世界各地で増え続け、FBは巨大化なプラットフォーマーとして、一大経済圏を作る勢いです。

◇無料アプリのソーシャル・ログインによるターゲティング広告

なぜ、無料でSNSのサービスを提供しているフェイスブックが、このような巨大企業にまで成長できたのでしょうか。

フェイスブックは、外部の多くのサービスとつながり、サービスを提供する企業とWIN-WINの関係を築いてきました。

企業は、ネットに無料アプリなどのAPIを公開しながら、ユーザーのデータを入手し、ターゲット層を絞ったマーケティングに力を入れるようになりました。

一方、「ソーシャル・ログイン」とは、ユーザーがネット上のサービスを利用する際に、FBなどのSNSアカウントで容易にログインできる仕組みです。

ユーザーは、その都度個人情報を打たなくても、SNSアカウントで簡単にサービスが利用でき、企業はアカウントから容易に、ユーザー情報を入手できます。

ユーザーは気づかぬうちに、無料アプリを利用する対価として、個人情報を提供し、集められた情報は、大規模なターゲティング広告に利用されます。

◇個人情報ビジネスとは

フェイスブックのようなSNS運営会社は、無料でサービスを提供しても、サイト上に表示される企業の広告から、莫大な広告収益を得ることができます。

消費者の嗜好が多様化し、従来のテレビCMのようなマス広告の効果が薄れてきたため、SNSは個々の消費者にアプローチする最適な広告媒体です。

商品やサービスをピンポイントで売り込みたい企業に、ネットユーザーの個人情報や趣味嗜好のデータを売るという、個人情報ビジネスが生まれます。

◇情報流出事件とターゲティング広告ビジネスのかげり

しかし、ケンブリッジ・アナリティカの情報流出事件以降、FBはプライバシー保護のため、ターゲティング広告機能を停止させると公表しています。

近年、欧米諸国でのFBユーザー数は減少傾向にあり、SNSの個人情報に依存して広告を流していた企業の、フェイスブック離れが始まっています。

広告収入の減少はFBにとって致命的で、新しいビジネスへ活路を見出す必要があります。

そこで、既に築いた莫大な資産を投じ、独自の仮想通貨を開発する流れが生まれます。

■仮想通貨リブラ誕生の舞台裏

仮想通貨リブラは、マーク・ザッカーバーグ氏にとって、過去の成功と今後の発展のために、まさに、誕生させるべき通貨だったのかもしれません。

リブラが生まれることになったフェイスブックの舞台裏と、その運営組織についてみてみましょう。

◇リブラ発行計画とペイパル社のIOMの考え方

リブラの立役者となったデビット・マーカス氏とはどのような人物なのでしょうか。

また、彼が代表を務めたペイパルとはどのような会社なのでしょうか。

☆リブラの立役者となったデビット・マーカス氏とは?

マーカス氏は、決済会社のペイパルの代表を努めていた時から、

IoM:Internet of Money(お金のインターネット化)

の構想を練ってきました。

IoMとは、国際的なデジタル通貨があれば、銀行口座を持てない人でも、携帯で買い物の決済や、料金の支払いができる社会が作れるという考えです。

マーカス氏は、1996年に23歳でGTNテレコムを設立し、2011年8月にPayPalに入社後、モバイルカードリーダーのPayPal Hereを立ち上げます。

2012年4月、PayPalの社長に選ばれ、2013年9月、PayPalによるBraintree(Venmoの親会社)の8億ドルの買収を成功させます。

しかし、2014年6月、マーカス氏はPayPalの社長を辞任し、FBに入社し、モバイルアプリFacebook Messengerの開発を監督します。

また、ペイパルは、デジタル通貨に関連のある会社で、ペイパルの創始者も仮想通貨に深く関わっています。

☆ペイパルの創始者と仮想通貨リップルとは?

ペイパルを立ち上げたクリス・ラーセン氏は、ビットコインのスケーラビリティの問題改善にいち早く目をつけ、リップルを世に送り出した人物です。

彼は世界中にユーザーをもつ決済サービス「ペイパル(paypal)」の事業を成功させた後、シリコンバレーにリップル・ラボを設立します。

ラーセン氏が模索したのは、ブロックチェーン技術を利用して、お金がネットを通して、情報が伝達されるのと同じスピードで送金されることです。

その実現のために、ブロックチェーンの認証アルゴリズムに、ビットコインのPOW(Proof of Work)ではなく、POC(Proof of Consensus)を採用しました。

POWは、取引の認証を、マイニング(コンピュータの莫大な量の計算作業)で行うため、多くの時間と電力を消費します。

しかし、プルーフ・オブ・コンセンサス(POC)では、あらかじめ選ばれた人物が認証するため、短時間、低コストで取引の認証が可能です。

リップルは、承認作業にマイニングを必要とするビットコインでは、到底達成できない、短時間・低コストの送金を実現しました。

◇フェイスブックのリブラ開発とその構想

リブラの発行計画のシナリオは、デビット・マーカス氏によって書かれました。

☆ IOMの発想とフェイスブック新ビジネスの展開

2017年末、FBで「Messenger」アプリの責任者を務めていたマーカス氏は、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏に新しく仮想通貨を作る話を提案します。

ザッカーバーグ氏は、以前に「FacebookCredits」で、発展途上国の消費者を支援するコインを普及させる試みを展開していました。

競合のアップルやグーグル、WeChat(微信・ウェイシン)は、既に金融機関の開発に参入しており、フェイスブックも何らかの展開を模索していた頃です。

彼は、マーカス氏を中心に、優秀なFBのエンジニアや、経済学者からなる100人以上のチームを組み、独自のグローバル通貨の開発に取り組みます。

リブラの構想は、少額決済のマイクロペイメントで、手数料なしの送金を実現し、ブロックチェーンベースのローンや保険契約に展開してゆくものです。

☆リブラの準備資産と管理・運用する組織団体

リブラでは、ユーザーが既存通貨をリブラと交換する時に、既存通貨は準備資産としてリザーブされる仕組みをとります。

リブラの価値を既存通貨に裏付けさせることにより、価格をコントロールするやり方で、FBは一連のシステムをオープンソースにし、世界に公開します。

リザーブされた準備資産の管理・運用は、フェイスブック社ではなく、独立した組織団体に委ね、リブラの運営をオープンにすることを考えました。

それが、ブロックチェーンを組織運営する、リブラ・アソシエーションという中立の非営利組織です。

組織は、最大100の参加企業で構成され、メンバー企業は最低1,000万ドル(約11億円)を払い、リザーブされる準備金の利子を受け取る仕組みです。

◇仮想通貨リブラの認証システム

次に、リブラのブロックチェーンの「許可型」の認証システムと、リブラとフェイスブックの関係について見てみましょう。

☆リブラのブロックチェーン認証システム

リブラは、「許可型ブロックチェーン」を採用しており、参加企業には、ブロックチェーン上のコード変更やアクセス制限の権限が与えられます。

ブロックチェーン上の取引の認証は、ビットコインのPOWではなく、リップル社のような、あらかじめ選ばれた管理者の合意による認証になります。

リップルのように、マイニングが必要な認証方法でないため、短時間で取引の認証が可能で、低コストで送金することができます。

同様の体制は、スイスの大手銀行UBSがIBMと共同開発した、バタビア(Batavia)のデジタル通貨制度でも採用されています。

フェイスブックは監督メンバーのひとつにすぎず、他のメンバーと同じ立場で、特別な権限や支配力を持たないことになっています。

☆リブラとフェイスブックとの関係

ザッカー・バーグ氏は、ビットコインの発明者、サトシ・ナカモトのような存在で、リブラは、完全な非中央集権的組織であることをFBは強調しています。

FBは、開発した新通貨のシステムを、新設した運営組織に委ねて、規制や安全面に関する対策を、組織として、民主的なやり方で決めていく予定です。

フェイスブックは、管理母体を「非営利組織団体」とすることで、リブラを、FBの枠を超えて世界に流通させることができます。

いっぽう、FBは、リブラの運営方針が決まっていない段階で、既に自社のMessengerとWhatsAppで利用できるウォレットを開発しています。

ウォレットのカリブラ「Calibra」の運営会社は、フェイスブックの子会社であり、まだ、カリブラに対抗する、リブラのウォレットは誕生していません。

非営利組織団体にリブラの運営・管理が委任されても「リブラはFBの産物であり、ザッカーバーグ氏の悪評は拭えない」というのが大方の見解です。

■なぜ、ビットコインではなくリブラが疑問視されるか?

米議会や既存の金融機関、各国政府は、リブラの何を疑問視しているのでしょうか?

それには、主に、個人情報のセキュリティーの問題、運営団体のコンソーシアムの問題、ブロックチェーンのコンセンサスの問題があります。

◇『フェイスマッシュ』的モラルの問題

ザッカーバーグ氏がどんなに崇高なビジョンを掲げても、フェイスブックに対する世間の目には、厳しいものがあるようです。

彼は学生時代、FBの元となった「フェイスマッシュ」というゲームを作成するにあたり、写真をハッキングして大学からペナルティーを受けています。

彼自身はビジネスマンとして成長していても、SNSという媒体は個人情報と深く結びつき、ターゲティングビジネスに利用される誘惑からは逃れられないでしょう。

何故ならば、企業にとり、個人情報=顧客リストであり、「SNS上の個人情報」は、マーケティングに最も重要な「価値ある情報」であり続けるからです。

コンソーシアムの企業が、新通貨を管理するにあたり、社員がその誘惑に走らず、高いモラルを持ち続けるのは、かなり高いハードルとなるでしょう。

◇コンソーシアムの落とし穴

コンソーシアムに参加している企業は、まだ暫定的なパートナーにすぎず、リブラのノード運営に、1,000万ドルを支払うまでは至っていません。

パートナー企業は、今後開催されるリブラの会議に参加し、組織としての方向性を共に決めると同時に、方針に賛同できない場合は離脱することもあります。

グーグル、アップル、アマゾンは参加しておらず、独自のデジタル決済制度を模索しており、各企業は今後どの組織に参加するかの判断が迫られるでしょう。

FBは、リブラのアプリ開発のために「Move」というプログラミング言語を作り、短期間でホワイトペーパーの公開までこぎつけました。

リブラがFBの手を離れたとしても、FBは技術面で影響力を持ち、コンソーシアムを支配し続けるだろうと言われています。

◇ブロックチェーンのコミュニティーの懸念

「誰もがアクセスでき、国家に属さず、単一企業の束縛や規制も受けない通貨をもつこと」が、ブロックチェーンのコミュニティーの求めるものです。

FBはリブラが、BTCのような「分散型」ブロックチェーンであると主張しますが、現状では、Venmoのような個人間送金のデジタル通貨に近いものです。

FBユーザー間の少額決済は、ブロックチェーンを介さなくても行うことができ、これによりFBは独自の経済圏を短期間で築くことができます。

リブラのブロックチェーンの認証システムは、選任者による「認証型」で、ビットコインのような非中央集権的で民主的な「非許可型」ではありません。

リブラは、ブロックチェーンという民主主義的イメージを武器として、金融ビジネスを展開したいFBのビジネスプランにすぎないとの見方もあります。

リブラのホワイトペーパーでは、将来的には「認証型」から「非許可型」に移行すると誓っていますが、実現のほどは定かではありません。

ブロックチェーンのコミュニティーは、「非許可型」ブロックチェーンだけが、すべての人に真に平等なグローバル決済システムを可能にすると言います。

また、真の世界通貨を求める者の中には、FBの影響力を排除するため、ビットコインを、より利用しやすい決済通貨に変革しようという動きもあります。

■最後に

謎の人物、サトシ・ナカモトが、ブロックチェーン技術でビットコインを世に送り出したのは2009年のことでした。

それから10年後に、IMFやG7で世界の首脳陣が、一仮想通貨を前に頭を抱え込んでいる姿を、彼は想像していたでしょうか。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏が言う、仮想通貨リブラによる金融界の「真の民主化」の構想は、まだ始まったばかりです。

そして、ブロックチェーンというパンドラの箱を開けてしまったビジネスマン達は、10年後の私たちに、どんな社会を届けてくれるのでしょうか。

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【参考】まもなく海外銀行口座開設の受付